Not Yet ~あの映画の公開はいつですか?~

主に国内未公開&未発売の映画の話など

Ammonite(邦題「アンモナイトの目覚め」)その向こうにはひとりでは行けない

Ammonite (2020) - IMDb「ゴッズ・オウン・カントリー」の茨の道とは違い、早々に公開は決まっていましたが、ほんの一言ではあるものの余計に付け加えられた邦題とか謎改編ポスターなどに何十回目かのうんざりとがっかりを覚え、やっぱり待ちきれなくて取り寄せました、フランシス・リー監督の第二作「Ammonite」。

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既にマスコミ向け試写や、オンライン試写が始まっていますので、一応ネタバレはしないように「ゴッズ・オウン・カントリー」を観過ぎた者として感想、感じたことを中心にちょっとだけ書いておきます。

 

今回の主人公は女性。もう何度観たのかも思い出せない「ゴッズ・オウン・カントリー」のあの色調、あの湿度、あの静謐さがそのまま舞台を19世紀の海辺に変えて蘇ります。早春のヨークシャーの丘に吹いた冷たい風は海風に変わり、波を立て、化石が眠る断崖に飛沫を上げ、孤独な主人公が踏みしめるのは草から波に洗われた丸い小石だらけの浜に変わります。このふたつの風景はいずれも厳しい環境で、地域性も大きく違うはずなのに、ひとつのフランシスの視点というフィルターを経ると、行ったことも無いのに何故か沁みるように懐かしくさえありました。

もちろんこの二作で描かれる主人公の生活はあくまで厳しく、地味で質素で抑圧されたものであることについて表現の甘さは一切なく、辛いほど十二分に伝わってくるのですが、とにかく画があの画であり、共通するモチーフがそこかしこに散りばめられているのです。例えるなら何だろう...?引越しても自分の部屋はあくまで自分の快適な空間で、やっぱり落ちつくなぁ...みたいな安堵感でしょうか。

この安堵感に似た感覚は「ゴッズ・オウン・カントリー」でワタシの中に培われたフランシスへの絶対的な信頼に基づくものだろうと容易に自己分析出来ます。要するに、ワタシは決定的にこの人の作風、この人の視点が好きなのです。

 

前作との違いこそネタバレなので自粛しますが、フランシスのたまらなく溢れてしまうロマンティストぶりと、相反するのではなくあくまでその表裏に在り続ける「人間は孤独な生き物」とか「愛だけでは生きていけない」とかそういう現実主義には共感しかありません。

だからこそ必ず出てくる、酔ってしまうほどに生々しく力強い性表現と、作中の当事者とひいては鑑賞者にまで突きつけられ問われる、性愛や情熱のその”向こう”へふたりで進めるのか、というもどかしく痛みを伴うあまりにも現実的で重い課題。

それを主人公たちはどうするのか、どうしたのか。

 

メアリー・アニングは実在の人物ですが、性的自認などの設定を含め史実を忠実に再現したドラマではありません。それでも彼女がいなかったことにされてきた歴史を思えば、この名前が立ち上がることには意味があると思ってます。

※この脚色の問題はメアリーの出生地からのクレームがフランシスの誠実さで一応終息したように見える一連の記事があったはずなので、また確認して貼り付けます

 

フランシスの私生活の変化に関して気付いてしまった上で本作を観たので、ヒリヒリとした痛みを端々に感じてしまいましたが、これは穿った感想かな...あと女 x 女の性愛描写が上手くて正直驚きました。

 

【おまけ】

今作とあの映画を比べる向きがあまりに多くて辟易しているんですが、そもそもテーマが違うと思った次第。