Not Yet ~あの映画の公開はいつですか?~

主に国内未公開&未発売の映画の話など

「Love, Simon」清潔な主人公によるとっても清潔な青春奮闘記

久しぶりの新エントリは6/17にU.S.で発売された「Love, Simon」です。シンプルなストーリーなのでネタバレ無しにします。

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でも自分は、MTV Awardでこの映画が「Best Kiss賞」を受賞したニュースが鑑賞より先になり、何度も同じgifがSNSに回って来て、結果壮大にネタバレを踏みました。暗闇でいきなり撃たれた感じです・・・やられた。

原作は『サイモンvs人類平等化計画』。このタイトル、(原作の)サイモンの行動原理が判って、鑑賞後にとても腑に落ちました。

 

発売日前にリージョンフリー(ユニバーサル版)Blu-Rayを予約、発売10日後に受け取りました。送料込み27.97USDで、DVDとダウンロードIDが同梱。多言語字幕ですが日本語だけ入ってない&英語字幕は聴覚障害者向けのみ。これは日本公開が準備されていないから?と思ったところ、どうやらiTunes版には日本語字幕があるらしい・・・こういうのなんなんでしょうね。

 

タイトルは、Eメール文末の署名ですね。名前の前に何を足すか。ワタシは仕事ではThank you, かThanks, あるいは Thanks in advance,が多いでしょうか。後者はボールを渡したというか、ちょっと『お前がやっとけ』ニュアンスを滲ませたくてわざと使っています。

主人公のサイモンはここに何を使うか悩んでいるうち、ある時ついうっかり正直に「Love」をタイプしてそのまま送信してしまいます。メールの相手、素性も判らない「彼」への好意を隠し切れないのです。

 

ストーリーはズバリ『ティーン向け』でした。一応PG13ですが。これまで何度も語られているcome outものと大筋は変わりません。ただ、登場人物たちのコミュニケーションツールには学内チャッターがあり、フリーメールを交わし、片時も携帯も手放せません。

 

サイモン役はニック・ロビンソン君。顎のほくろが可愛い『ジュラシック・ワールド』のお兄ちゃんですね。95年生まれ=今23歳なので、撮影時には成人していたようですが外国人の自分から見ても”アメリカの高校生”役に何の違和感も無く、とてもフレッシュで、この映画に決定的な清潔感を与えてくれています。平たく言えば「可愛いけどあんまりエロくはない」です。

(最近日本で話題になったあのドラマの田中圭さんを思い出しました。あっちはもっとお兄さんなのでちょいちょいサービス的にエロかったですが、可愛らしさと清潔感が似てるかなと)

 

男らしいパパと優しいママ、利発で可愛い妹、特別に可愛いわんこ(テリアの一種だと思うんだけどなんて犬種だろう?)に囲まれた暮らし。高校生のサイモンは親にプレゼントしてもらった新車で毎朝友達を拾って学校に行きます。をを、アメリカ。

『おはよ!(肩ポン)』

『よ、よう・・・(♡)』

みたいな通学路の風景って日本の学園ものの必須ですが、こちらではドラマは車内(というか車中心)で起こります。いかにもアメリカらしく、また、こういうティーンの日常や風俗の根幹は古い映画からアップデートがあんまりないんだな、とも。

 

サイモンのパパとママは、ジョッシュ・デュアメルとジェニファー・ガーナー。なんて戦闘能力の高いご夫婦w。

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さぞや息子を困らせたあいつをボッコボコに・・・とちょっと期待してましたが。

特にジョッシュはドラマ『11.22.63』で家族を手に掛ける狂気の父親を演じていて、『トランスフォーマー』シリーズの正義の軍人よりもそのサイコなイメージが自分の中で強くなってしまっていたところなので、いつ切れるのかとちょっとドキドキ。

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まさか自分がゲイだとは思っていない家族、幼馴染、友達、クラスメイトに囲まれ、サイモンは一番肝心なことを隠したまま、恋したり、されたりします。彼の悩みは「何故自分はゲイなのか」ではなく「ゲイである自分のまま、これからどうしたら良いのか」。時間を掛けて自分を肯定出来てはいるけれど、これからカムアウトするとも、しないとも決めかねています。

 

彼の密かな恋の相手は、Blueというハンドルネームの彼。同じ学校で、同じ悩みを持ち、でも家族にカムアウトを考えている彼にだけ、サイモンは繊細な胸の内を匿名で吐露しやりとりします。

Blueは一体誰なのか。

メールで語られる少しのキーワードを元に、彼が誰なのかを探すうちに、サイモンは学内で息を潜めている自分と同じクローゼット・ゲイ達の存在に気付いたりします。

 

そんな時にある事件が起き、サイモンは必死に収束を狙いますが、結果的に望まぬアウティングを学内にされてしまいます。

さらにBlueは

「君が誰か僕には判った。でも、僕は今正体を明かすことはできない」とアカウントを閉じてしまいます。

事態の収束のためにした努力が全て裏目に出て、友達からも疎んじられ、学校中からは不躾な好奇心だけをぶつけられ、家族もまるで腫れ物に触るよう。孤立無援になったサイモンは、自分が自分であるために勇気を奮って、ある思い切った行動に踏み切るのです。

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『ティーン向け』と表現したのは、この映画には諸処に複雑さを放棄したようなところがあるからです。良くも、悪くも。

主役にストレートで清潔感のある俳優を使っていることで、映画からは肉欲や情欲は徹底的に排されています。降って湧いたような過酷な渦中にあって、どう身を処すのが「自分」なのか悩むサイモンの性欲は、そこに無いかのように全く見えません。大切な相手にも話せない秘密の大きさ、クローゼットの中にいる彼の孤独、「自分と同じような人間と出会いたい」というせつない渇望はとても伝わってくるのですが、そこに生なましさは一切ありません。サイモンが彼なりにとても頑張って作業員の男に声を掛けたりするシーンですら、とても清潔、無味無臭。

それは彼だけではなく周囲も同じです。恋をしたと言いながら頭でだけ考えて、感じることを忘れて右往左往して物語が進んでゆく。夢やイメージでだけ紡がれる、霧の向こうにあるような「触れ合い」。

 

自分の行動基準に性欲を挟まない(と決めているかのような)、揺るぎのない清潔さを放つサイモンは、ゲイセクシュアルを学ぶ”入門編”にふさわしいキャラクターには思えます。

本人の傾向やその自認はともかく、世の中には様々な性的傾向があり、そのうちのゲイセクシュアルと個人としてどう関わるのか。ホモフォビアを形成しかねない若い世代には取っつきやすく理解しやすい、端的に言えば「万人向き」、身も蓋もない言い方なら「気持ち悪くないゲイ」としてサイモンは存在しています。それこそがこの作品のテーマなのかと思えるほどに。

アセクシャル」という性欲を持たない性の在り方にやっと呼び名が付いた昨今ですし、誰しも何もかもが性欲ベースでは動いていない(はずである)ことを考えても、このことにはなんだか綺麗事過ぎてモヤっと。

もちろん、この作品が若年層への静かなる『Love is Love』プロバガンダを狙っていたとしても、あるいは単なるマーケティング=特定市場への受け狙いのどちらでも否定はしません(し出来ません)。

もし今のアメリカのショウビズで、かつての「性欲に浮かされたティーン映画」(凡例:『アメリカン・パイ』)の代わりを担うのがこの映画だとしたら、とてもとても感慨深いことです。

 

あと、老長けたBBAには、サイモン含め周りのキャラクター、特に悪役造形の薄さが不満です。不器用を通り越した歪みを持った、救済されない道化って2018年にまだ必要ですか?だったらきっかけは通りすがり(ハッキングとか)で良くないでしょうか。お友達もみんな良い子だけど、若いからってちょっと流されすぎだったぞ!

 

 

いろいろ書きましたが、それでもサイモンは最初から最後までチャーミングで、恐らく映画というエンタテインメントには不可欠な、十分に「応援したくなる主人公」でした。サイモンは自分自身の今の在り様を誰のせいにもせず、「XXだから」も「XXなのに」もない、正に”人類平等化計画”のために、そして芽生えたばかりの恋の為にひたすらに奮闘していました。

「自分」を微妙に持て余しているティーンがこの映画を観たら、少しでも元気が出るんじゃないかな、と年寄りらしいことを書いておきます。

 

***8月某日追記***

この映画、配信が決まりましたね!「Love, サイモン 17歳の告白」

video.foxjapan.com

「デジタル・ロードショー」という20世紀FOXのコンテンツに入るようです。

というか、何ですかこの文章(憤)

「世界では話題なのに日本では未公開の」って、何故未公開なのかという根本に関して責任は感じていないのかしら・・・?