「King Cobra」アイコンネームの呪縛
(文末に追記あり:ギャレッド・クレイトンくんの近況)
この作品はおそらく日本では円盤も出ないし、ネトフリやアマゾン等にも来ることはないかと。
日本では陽の当たらない、というかそんなものは無いかのようにしたいであろうR18のゲイポルノ業界が舞台な上、実話ベース。どうにも訴求し難いんじゃないでしょうか。
以上を前提に、遠慮なくネタバレします。
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カメラマンのスティーブンには妹にも話せない秘密がある。それは自身がゲイであり、さらには少年趣味のポルノサイトの運営をしていること。
スティーブンは地方の美少年ショーンを自分の家に住まわせ、ブレント・コリガンの名前で売り出すことに。恵まれた容姿ながら過激な内容も厭わないショーンは瞬く間に爆発的な人気を博す。
家出同然のショーンは巧みにスティーブンの嫉妬を煽って愛人になり、彼を懐柔し、翻弄してゆく。
しかしショーンは自身の収入とスティーブンが手にしている額の違いを知り、別のポルノレーベルを運営するジョーとハーローのカップルと接触を始める。また共演者と交際するようになったショーンにはスティーブンの束縛が重荷になる。
契約上、移籍をするとブレント・コリガンを名乗れなくなることを知ったショーンは、自ら身分証を偽造し年齢詐称をし18歳未満でデビューしていたことを明かしてスティーブンとの契約無効を訴える。スティーブンはその嗜好と裏ビジネスを世間に知られることになり、児童虐待で罪にも問われてしまう。
同じころジョーとハーローは自分たちのビジネスの邪魔であるスティーブンを消そうと企み、それを実行する。
自分に殺人の嫌疑がかかることを案じたショーンは、ジョーとハーローがスティーブンについて話す会話を秘密裡に録音して警察に協力し、ふたりを逮捕に導く。
ショーンはそれからもブレント・コリガンとしてポルノへの出演を続ける。
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何故自分がこのDVDを取り寄せたかと言うと、ジェームズ・フランコが出てるから、がまずひとつ。
(今、彼は騒動の中に居ますが、それに関してここには書きません。既存作品での俳優としての彼とは一旦切り分けたく。
彼の著作については邦訳が出ていないので、そのうちの何冊かについては彼の今後に関わらずそのうちまとめたいです。)
それから、この業界への単純な興味です。表向きは社会学的興味ということで。遥か昔に社会学科を専攻していました。
海外では今やゲイポルノはひとつの産業として確立し、興隆している印象があります。
言わずもがな、性産業は最古の産業で、路上からストリーミングまで業態は多々あれど基本は「裏」産業。
故に利用者には背徳感があり、ついては可能な限り匿名で利用(視聴や購買)したい。
そうなると産業側に求められる努力は、サービスの質の向上、ひいては利便性と信頼性の向上とイメージの健全化・・・ってこう書くと、どの産業もその拡大努力は大きく異ならないですね。
要するに、クレジットカード情報を入れて安心な高セキュリティサイトを作って、それなりの書き出し速度で閲覧出来て、というインフラ構築と、コンテンツの拡充がなかなかに上手くいっているように見えるのです。
まぁ海外と言ってもアメリカの都市圏とヨーロッパの一部だけの印象ですし、R18の市場規模はヘテロ向けの方が圧倒的に大きいでしょうし、ゲイポルノのそれがどのくらいなのかもわかりません。
でも界隈で顕著に目立つ国名を敢えて上げると、チェコあたりではなかなかの外貨獲得産業になっているのではと推察します。
コンテンツの拡充、と言うと綺麗にまとめすぎですが、要は制作会社毎に個性を打ち出し、世界中のあらゆる「欲」を誰かが確実に引き受けるような多様性が準備されていて、しかも「従事者の年齢」と「従事者の合意」を合法的にクリアし、ある価値観に限って言えば健全な労働に見えたりもします。
脱がなくてもそれなりに有名になれそうな若いモデル(今や男優ではなくこう呼ぶのが適切のようです)たちが、SNSで自分の出演している作品の宣伝と普通の若者としての生活を並行して発信する時代です。その一見屈託の無く見える様子にはちょっと驚きます。
この作品の舞台であるアメリカは元々ヘテロのポルノのリーダーであり、この産業全体の活性化に先行していたかのように見えますが、某政権下の現在はちょっと逆風かもしれません。
また、この作品が取り上げている実際にあった事件は上記の「年齢」と「合意」をひっくり返したのが発端なので、それが時間が経った今も影を落としたままに思えます。もちろん、この点を厳重にすることにはメリットしかないはずなのですが、十数年前のこの出来事、看板モデルの奪い合いが殺人に発展するような業界である、という印象は簡単には拭い去れないものでしょう。
作中の主人公は本名/芸名とも事件の渦中にあった実在の俳優と同じです。
とはいえ、現在もその業界で現役である当のご本人には協力や監修を拒否されたとのことで、本人は出ませんし過去映像を使うわけではないのでドキュメンタリーではありません。でも事件は有名だからその内容は歪められないし、劇場公開作品なので、R18相応にエロもグロも適当に回避しています。
※この事件とその渦中にあったモデル、ブレント・コリガン氏については、ちょっと内容が古いですが日本語でwikiがあるのでご興味あれば。
十代の頃のご尊顔です↓今も甘口ハンサムですが、ムキムキして四角くなったのと着衣の写真が出てこないので貼りません。
勢いでポチったので、届いたパッケージを見てから、クリスチャン・スレーターがスティーブン役で出ているのを知りました。おう・・・歳取ったね、お互い。『トゥルーロマンス』のからは四半世紀(!)、ゲイの役は初めてでしょうか。
さらにモリ―・リングウォルドが妹役で、アリシア・シルバーストーンがショーンの母親役で出ています。ふたりともゲスト出演感が強く、80年代のアイドル映画スターを使いたい誰かの存在を感じました。
そして主人公は元ディズニー・アイドルのギャレッド・クレイトン。アイドルがこういうスキャンダラスな役を演じたことはそれなりにニュースだったようですが、ギャレッドはインタビューで、自身の裸については、上半身+あくまでもお尻を1回見せるだけと厳重に契約したと言っていました。さすがアイドル。(そう言われて観直せば、なるほど、そうでした。)
お陰でショーンには華があって「あーこの子売れるわー」感はよく出ているのですが、残念ながら彼の持つしたたかさが”それなり”止まりで、場当たり感が否めず。彼に巻き込まれて自滅していく人々の浅はかさしかり。
#まさか「そういう薄っぺらい業界なんだよねー」と安易に結論付けたいとか?
今でも世界中に大勢いるらしいファンには悪いんですが、ブレント・コリガンという人のしたたかさはこんなもんじゃないと思ってます。逃げ足が速い策士、と。
年齢詐称に関しても、インタビューを読んだら「当時の地元の年上彼氏に言われてー」とか、結果的に死人が出ているのになんだか他人事な感じだし、芸名の取り合いに関しては長らく訴訟になっていて、判決が出る前からじゃんじゃん名前そのままに仕事したり、なかなかグレーなお作法を取る印象。さらには業界を引退すると高らかに宣言しながら少しするとブーメランのように復活してるし、今の彼氏もねー・・・どうにもビジネス彼氏っぽかったり。(追記:何度かの別れたり修復したりのアナウンスの後、馬面/馬並彼とはついに別れたそうです)
そのくせ彼本人を貫く美学や哲学のようなものがほとんど感じられない。だからこそ、過激なプレイで名を馳せたのかも、断ることを知らないだけかも、とすら思えたり。
#うーん、ご本人が場当たりタイプだからこういう映画になってしまったのか?
本名のショーン・ポール・ロックハートは別だとしても、ブレント・コリガンという名前の下での彼はもう徹頭徹尾bit*hというかsl*tと言うか、映画の中で自分のママに罵られていた通りアレで、誰かを欲情させるだけの主体性に乏しいポルノキング、正に裸の王様であろうと努めているのか、もはやそれすら考えていないのか。
ジョーとハーローのエピソードも、もっと描くかもっと端折るかして欲しかった。収監中の実在の犯罪者なので、難しいとは思うのですが。
ジェームズ・フランコとキーガン・アレン演じるこのふたりは、公私を支え合う愛し合った「家族」なのだと自称しています。ハーローがビデオに出演するだけでなく売春もして糊口を凌いでいますが急に不能になり、いずれのビジネスも回らなくなり犯罪に走ります。うーん、腐女子だけどハーローが売れっ子とはちょっと思えないんだよなー。どう考えてもジョーの方がお色気があり売れる気がしますが、年齢的には厳しいか。
ジェームズ・フランコは他にも進んでゲイ役を引き受けていて、また作中で脱ぐことにも抵抗が無いと言って憚らない人であり、キーガンとふたりでそれなりに思い切ったシーンをこなしていますが、まぁそうは言ってもR18なら何やってもいいわけじゃない。
こうして積み重なったろいろな制約のせいなのか、世の中にはこういうビジネスがある、ということだけは分かるものの、この作品を薄く残念なものにしてしまっています。
彼女なりに息子を愛しているものの、決定的に保護者にはなれないショーンの母親のどうしようもなさだったり、ショーンを含めこの業界しか居場所が無いように見える人たちの描写とか、ところどころには巧いところもありました。
もし万象繰り合わせることが出来ていたら、この映画はどこに向かったのでしょう。
この先ブレント・コリガン氏がいよいよついに引退したら、この名前での最期のひと儲けに、再び業界を震撼させる明け透けな自叙伝でも出していただき、それを実写化する体で再度チャレンジするとか。
あるいは、もういっそあの名前を使わないで、あくまで虚構のキャラクター達による何処かで訊いたような事件の体にしておけば・・・と軽く想像するだけでも「ブレント・コリガン」という名前が持つメタ的な呪いと破壊力を感じてしまいます(怖)。
そこまで詳しくないのであくまで私感の極みですが、ポルノという業界はたぶん、地下産業として長らくの黎明期があり、インターネット時代の到来があり、ゲイポルノならこのブレント・コリガンがストリーミングビデオの第一世代の旗手であり、SNS時代の到来に合わせて、今は第二、もしくは第三世代になっているように見えます。
求められる情報発信の頻度と鮮度は過去の比ではなく、モデルの子たちは自分に関して巧みに情報戦略をする必要があり、それには主体性と個性、個々の美学なり哲学なりの構築が不可欠のはずです。物を言うモデル、と言いましょうか。もちろん、エージェントがついて戦略的にイメージ構築する例もあるでしょう。配慮に欠ければ舌禍すら起こります。現れては消えてゆくモデル達の活躍サイクルの短さもより顕著です。
そんな中で、あまりにも色々あった彼のこの名前に相変わらず商品価値がある(ように見える)のは、なかなかに興味深いところです。
【注文と納品】
Amazon UKからUK PAL DVDで購入。6.66GBPでした。到着までは2週間弱。
英語字幕無しでしたが、この作品の視聴に関しては分からない会話は殆どありませんでした。会話の底が決定的に浅いのです。学校で教えてくれない英語はガンガン出てきますが、レーティングがあるからまだそれでもマイルドな印象。
でも、上にも書きましたが、ショーンがポルノモデルであることが実の母親にバレた時、彼女に「hole!」と罵られたの、これはキツい。ここは脚色だと思いたいです。
【追記】
本作主演のギャレッド・クレイトンくん、8月にcome outしましたね。ディズニーの冠の下でティーンアイドルだった彼がこういう役に挑戦するのは、役者としてのチャレンジだけではないだろうと思っていたこともあり。全然驚かなかったし、もういちいちそういうリアクションしなくて良い時代になったんじゃないでしょうか。